自分用の Debian CD を手に入れようと思えば、数多くの方法があります。まず Debian の CD を販売している小売業者から買うという手があります。小売業者には Debian プロジェクトに代金の一部を寄付しているところもありますので、この方法にもメリットはあります。Debian プロジェクトが長期にわたって存続し続けられるよう援助するには寄付が確実です。
もう一つは自分で CD を焼くやり方です。すなわち ISO イメージを手に入れた上で新品の CD に焼くということです。jigdo が登場するまでは Debian の CD を作るには二通りの方法がありました−
ISO イメージ全体をダウンロード
pseudo-image kit (PIK) を使う
この文書では jigdo を使って Debian の ISO イメージを入手する新しくてより良い方法について解説します。PIK は実際のところお勧めできません、Debian の ISO イメージを入手する正統的な方法は jigdo です。
Debian の ISO イメージを http や ftp でダウンロード可能なミラーサイトも存在しますが、数は少なく、ミラーサイトの帯域は Debian の ISO イメージを手に入れる人全ての要求に応えられるほどはありません。例えば、聞くところによると fsn.hu はプロバイダーからの接続がパンクしたそうです。そのときの月単位の送出量は数テラバイトに達したそうです。
加えて、Debian の testing と unstable は頻繁に更新されていて、ISO イメージはダウンロードしたその日の内に旧版になってしまい、それを避けるには ISO イメージを loopback デバイスにマウントして rsync を使う (PIK が採用している方法です)ような奇手をとるしかありません。すなわち最新版の ISO イメージが欲しければ ISO イメージを毎日ダウンロードしなければなりません。こんなやり方を誰もが望んでいないことはハッキリしています。
手に入れたいのは安定版の ISO イメージであっても、 安定版ですら数ヶ月おきに更新されます。ISO イメージをダウンロードすると数ヶ月の間は最新版のイメージを手元に置いておけますが、Debian 安定版の改訂がリリースされる毎にスクラッチから ISO イメージセット全体をダウンロードするという面倒な手順を行わなければならないのです。こんなやりかたは時間とミラーサイトの資源の無駄遣いです。
PIK を使えば、ISO イメージ全体をダウンロードすることにより発生する問題をかなり回避できます。PIK によるダウンロードは高速で rsync の利用により ISO イメージの内、更新が発生した部分だけを作り替えるので、自分の ISO イメージを最新状態に保つには効率のよいやり方です。しかし PIK には見過ごせない問題も存在します−
使い方は難しく、ユーザーフレンドリーとは言えません。
testing または unstable 版の ISO イメージセットのダウンロードには PIKを使えません。
PIK は rsync を使い、rsync はサーバーの CPU に負荷がかかります。PIK を使って同時にサーバーに接続する人数が多すぎるとサーバーはダウンしてしまうでしょう。PIK のユーザーインターフェースが改善されたとしても、ミラーサーバーにとっては歓迎せざる存在であることに変りありません。
PIK は rsync を利用していますが、rsync はアクセス制限の厳しいファイアウォール越しには利用できないことが多く、高速で快適な勤め先のネットワーク上で PIK を使おうとしても障害に突き当たってしまうかもしれません。
PIK を利用する前提として ISO イメージを全てサーバー上に保持しておく必要がありますが、Potato 時代の「旧き良き時代」には 28 枚の CD イメージで「たったの」17GB であったものが、Woody になると 96 枚の CD で 57GB 相当を要します。CD に加えて DVD まで配布するとなったら、必要なサーバーの領域は倍増するでしょう。
jigdo (「Jigsaw Download」の略です) は Richard Atterer が作成して GNU GPL の条件で公開しています。jigdo を使うと ISO イメージを効率的にダウンロードし更新できます。jigdo は Debian に特化しておらず、どのような ISO イメージにも適用できますが、Debian プロジェクトでは jigdo を ISO イメージダウンロード用のツールとして推奨しています。
jigdo は 2 個のユーティリティで構成されます−
jigdo-file は ISO イメージを提供する人が使います。jigdo-file を使ってダウンロード対象のイメージファイル用に .jigdo と .templateファイルを生成すれば、誰でも ISO イメージをダウンロードできるようになります。
jigdo-lite は ISO イメージをダウンロードしたい人が利用します。ダウンロード時には jigdo-file で生成した .jigdo と .template ファイルを使用します。単に Debian の ISO イメージをダウンロードするのであれば、jigdo-lite のみを使用します。
jigdo は ISO イメージを生成するものという誤解をしている人がよくいますが、そうではなく jigdo-file を使うと.jigdo と .template ファイルを生成して ISO イメージのダウンロードが可能になるのです。ISO イメージをダウンロードしようとする人は、.jigdo と .template の 2 種類のファイルを手に入れてから、jigdo-lite を使って ISO イメージをダウンロードします。jigdo-file を使うには前もって ISO イメージを作成しておく必要があり、通常は作成には mkisofs や debian-cd などのユーティリティを使用します。
jigdo を使えば、ISO イメージを丸ごとダウンロードしたり、PIK を使った場合に発生する問題を全て回避できます。
ISO イメージ全体をダウンロードするのに比べてはるかに高速です。
ISO イメージ全体をダウンロードする場合と違って、旧版の CD (または loop マウントした旧版の ISO イメージ)を入手でき、CD (または ISO イメージ)を作成した以降に変更されたファイルのみをダウンロードして新しい ISO イメージを生成します。cvs を使ってソースコードを更新する作業と非常に似ています。
jigdo-lite は PIK よりもずっと易しく使えます。
jigdo-lite では wget を使用し、デフォルトでファイル転送に http プロトコルを利用します。PIK では rsync を利用し、rsyncが通過できないファイアウォールは複数ありますが、http をブロックするファイアウォールでは jigdo-lite どころか、そもそも jigdo を使い始めることすらできないはずです。jigdo-lite を使っていてファイアウォールが問題になることはありえないでしょう。
jigdo-lite のユーザーインターフェースは PIK よりずっと使い易いものです。
jigdo-lite は PIK に比べてサーバーにかかる負荷がはるかに少なくなります。
jigdo が Debian ISO イメージの取得に最適であることはハッキリしています。